黒木売り=大原女の浮世絵
哥麿『俄か黒木売り』UTAMARO “ Make up as KUROKI PEDDLER "
これは「俄か」つまり、扮装。「ごっこ」の様子です。今でいうコスプレ。
黒木は薪の一種で焚き付けとお料理に必要でした。
黒木とは 長さ1尺(約30cm)に切り揃えられて、窯で黒くなるまで蒸されたものです。
黒木売とか大原女・小原女と呼ばれた女性たちは、洛北(八瀬・大原)から黒木を牛に積み、1束ずつ頭に乗せて、京都市中へ売りに出ました。
大原女のファッションは商売用の仕事着
田舎から売りに立てきたとはいえ、ファッションは当時も魅力的だったようです。時代によって変化したそうですが、手甲・脚絆・わらじは古くから変わらず。小紋をうかした紺色の河内木綿の着物に 御所染めの帯。
吹き流しにかけている手拭いには、百人一首や風雅な古歌が縫い込まれていたとか。
黒木売はファッションも当たり、洛中(京都市内)で成功しました。
絵師たちも画境をそそられ、浮世絵に多くなっていますね。
実は重労働! 黒木売り
重さは30~40kgもあったそうです!40kgを頭上に乗せて、八瀬くんだり(今は北の大原と共に洛北の野趣感じる景勝地です)から歩いてたとは . . . 大変なお仕事 . . . 。コスプレの黒木は短くて重くはなさそうですね。
喜多川月麿『桜黒木売美人図』江戸(19c)
歌舞伎舞踊と日本舞踊の演目や長唄にも、大原女を材にした『小原女』があります。初演は、1808(文化7)
あらすじ《腕の良い絵師 蛇足は、帝に可愛がられたが、それを妬んだ悪者 山名のウソによって絵師 蛇足は流刑。絵師は帝を守るため??自害 . . . しかし、絵師の執念は、自ら描いた絵を額から抜け出させ、悪人 山名の家来を翻弄し、絵師を恋慕う姫・銀杏の前、の侍女を救う》 . . . 歌舞伎は、こういう筋書がよほど好きな様ですが、個人的には、陰惨なシーンと納得できない展開は好きではない。二度と戻らない時間にせっかく観るならば、絶対に「愉快でほのぼのした物語」!
こういう色恋+変身話は 能・狂言・歌舞伎に多いですねぇ。今でも変幻変身ものはよくありますけれど。
「黒木買わんせー、黒木召せー」この『小原女』では、途中のクドキで、お多福面を被ってコミカルな田舎娘(牧歌的)があります 「♪ わしほど優れたおなごをば 嫌うおまえの気が知れぬ」。古くからあるお多福面を被って踊る《おふく》、早乙女・狂言の小原木・壬生狂言の大原女など。
ちなみに《クドキ》とは、曲のメインになる「恋心を表すパートの事」です。邦楽は、起承転結みたいにパート分けがされる作曲形態なのです。イントロは《オキ》と呼ばれます。ところで、古語辞典に変な解説を見つけました。
「袷」裏地のついた着物。季語 夏 . . . ?! 袷は確かに裏地が付いてますが、夏には着ませんよ!夏は6月の単→7月8月の薄物、です。蕪村さんの一句はどうやら5月に読まれたようです「小原女の 五人揃うて 袷かな」
野沢英川『大原女図』江戸文化年間(1804-18)後期
手甲に脚絆、草鞋。切りそろられない薪が写実ですね。
着物の文様は八曜に唐草文様
頭に掛けた手ぬぐいは分銅熨斗紋。活動的でおしゃれな黒木売り・大原女の装い。